「ある場所に定着することで生まれる生活。定着することで必然となる移動。未知の風景、熟知した風景。この作品に登場する映像は主に次のような場所で撮影された。山形県山形市、宮城県石巻市、大阪府堺市、大阪市北区梅田、岩手県気仙郡三陸町、埼玉 県大宮市、福岡市博多区、山口県秋吉台、山口県下関市、青森県竜飛崎、秋田県南秋田郡大潟村。どの映像がどこなのか、といった説明は行わない。ただ強調したいのは、山形という場所に約6年間定着した私が、そこを基準に触れた風景の数々であるということだ」(「作品コメント」より)。

1998年3月に制作した「地図と野帳」はそれまでの私が映像に携わる上でとりあげてきた「場所性」「時間」「地形」「空間」そしてそれらから垣間見られる「人間」といったテーマを総括するビデオ作品となった。映像に関わることのごく自然な行為の一つとして、写 真やビデオで日常を切り取る作業を継続している。蓄積していくそれらは結果 として自分が居住している土地との関係性を強く表現するものとなる。それらを整理(編集)し時間軸のあるビデオ映像としてまとめたものが、この作品であった。そして3年が経過した今回、INCUBATION 2001において初個展を開催するにあたり、私は発表する作品名を同じく「地図と野帳」とすることとした。

私は今まで何回か引越を経験しているが、新しい土地にやってきて一ヶ月ほどはまだ「他所から来た」という感覚が身体に染み込んでいて、風景を見る視線にも微量 ながら「緊張感」が含まれているのが分かる。「住めば都」という言葉があるが、二ヶ月もすると明らかにその土地に根付いた「生活者」の視点に変わっていることを感じる。つまり今、居住するその場所が徐々に私の思考の基軸、知の大いなる地平へとなっていくのをその都度感じるのである。ロシアのSFの名作「惑星ソラリス」に登場する「ソラリスの海」は知性を持った存在である。今年になって約10年ぶりに故郷である大阪・堺に戻ってきた。私にとって今、大阪・堺が「ソラリスの海」なのである。

back